お母さんは持ってきたタオルを公園の水道で濡らし汚れた靴を拭き始めた。
私はまだ目の前にいるお母さんの存在が信じられず、ベンチに座ってただその姿を見つめる。
「朱美さん、勝手なことをしてすみません」
「いいのよ…大輝君はどうして私達が親子だって知っていたの?」
「知っていたわけではありません。もしかしたらって、その程度です」
会長はそう思った理由を、ゆっくりと話し始めた。
時折私の表情を確認する会長の優しさが嬉しかった。
「もしかしたらって思ったのは今日です。麗奈の誕生パーティーが行われるホテルの名前を聞いた時、何かが引っかかりました」
「ホテルの名前で?」
「夏休みのある夜、麗奈が他の男と笑ってる姿見て居ても立ってもいられなくて…国道に飛び出そうとした俺を朱美さんが助けてくれましたよね?二人がタクシーに乗り込んだ時、朱美さんがボソッと何か言ったのを俺は特に気に留めていませんでした。でも、今日何かが引っかかって考えてたら思い出したんです。あの時、朱美さんは確かに“麗奈”って言いました」
お見合いの帰り、会長が私達を見ていた事は聞いたけど。
まさかそこに偶然お母さんがいたなんて…

