「このままでいいの?…このまま他の男に麗奈を取られても」
「…何が言いたい?」
「あの子の事が好きなんでしょ?見てればわかる」
山下はふっと笑いながら「二人とも分かりやすいもの」と続けた。
俺は何も言えなかった。
平然を装っていたつもりだったのに、まさか気付かれていたなんて思いもしなかった。
「このままだと麗奈は高校卒業と同時に小出財閥の御曹司と結婚するわよ?これは政略結婚じゃない…小出直幸が麗奈を一人の女性として好きなのと同じように、麗奈も彼を一人の男性として見ようとしてる」
山下は凭れていた壁面から離れ、寂しそうな表情で遠くの方を見つめている。
「でも私にはわかる。麗奈の中にはまだあなたがいて、必死で忘れようと、小出直幸を好きになろうとしてる……最近、麗奈は心から笑わないのよ…私はあの子に心の底から幸せになってほしい」
そう言うと、山下は俺の方へ向き直り瞬きもせずに俺を見据える。
そしてさっきの寂しそうな表情とは一転、眉間に皺を寄せて口を開いた。

