「早く行った方がいい。この場は俺が収めておくから…最後ぐらい、俺にカッコ付けさせてよ」
「直幸さん。私、あなたと知り合えて良かったです。今までありがとうございました」
最後に直幸さんの目をジッと見つめる。
その瞳が微かに揺れていることに、気付かない振りをした。
私はバルコニーの柵に再び手を掛け、会長を見る。
視線が重なると、会長は勇ましい表情でもう一度両手を広げた。
「麗奈っ!!何をやってるの!?」
祖母の怒りに満ちた声が聞こえる。
私は祖母の言葉を無視して、しっかりと柵を握ると軽くジャンプした。
手の力で身体を支えながら胸の下ぐらいの高さがある柵に片足を掛ける。
そしてすぐにもう片方の足も柵に上げると、躊躇することなくそのままバルコニーから飛び降りた。
その瞬間、羽織っていた直幸さんのスーツが宙に舞った。

