私は流れる涙を手の甲で拭って、直幸さんの方に身体を向ける。
いつも私に正直でいてくれた。
今度は、私の番…
「直幸さん、私には大切な人がいます。だから、この縁談はなかったことにして下さい」
私は深く頭を下げた。
周りから一斉にどよめきが起こる。
「…やっと…初めて麗奈ちゃんの本音を聞けたね」
「え…?」
頭を上げると、直幸さんは優しい笑みを浮かべていた。
「今まで見てきた中で、一番良い瞳をしてる。行けよ、一番大切な人の所へ」
「直幸さん…ありがとう…」
私は満面の笑みで直幸さんにお礼を言った。
すると会場の中から祖母の慌てたような声が聞こえてきた。
「ちょっと!通して…道を開けて下さい!!何の騒ぎですか!?」
祖母は窓際に集まる人達で、私達の様子が見えないようだった。
一緒に父親と小出社長と婦人の姿も見える。

