「…か…いちょう……?」
聞き間違いだろうか…
今、一番会いたい人の…
愛しい人の声が聞こえた気がした。
私はルーフバルコニーの柵に手を置いて、ホテルの庭に視線を向ける。
すると私の真下でこちらを見上げているガソリンスタンドの作業服を着た会長の姿を見つけた。
「どうして…ここにいるの…?」
何が起きているのか、頭がついていかない。
ただわかるのは会長が目の前にいるということ。
「迎えに来た」
「迎えに…?」
「好きなんだ…お前のことが」
私は目を大きく見開いた。
好き…?
会長が…私を?
「…私は、あの人の娘…だよ…?会長が許せない…一番憎い人の…」
「それでもいい。お前はお前だろ」
会長の言葉が胸に染みる。
鼻の奥がツンッとして、驚きで止まっていた涙が再び溢れてくる。
すると会長が口を開けて大きく息を吸い込んだ。

