すると静まり返った廊下に、私ではない誰かの階段を登ってくる足音に気付いた。
まさか…会長…?
私は四階と屋上の間の踊り場で立ち止まり耳を澄ます。
心臓が緊張で激しく揺れ動く。
「え……村内さん…?」
階段を登ってきたのは、今朝私を睨みつけていた村内さんだった。
村内さんは口元に笑みを浮かべるも、目は全く笑っていない。
「ねえ、谷本さん。小出直幸とお見合いしたって本当?」
彼女の唐突な質問に、私は面食らった。
「あ…うん。お見合いは…したけど…噂のように婚約はまだ…」
「ふ〜ん。でもお付き合いはするんでしょう?」
私は彼女の異様な態度に眉を顰める。
噂騒ぎで初めて話した時とは、雰囲気も話し方も全く違う。
今朝の鋭い目つきといい、これが本当の彼女の姿なのかもしれない。
「…そういう事はあまり知らない人には話したくないの。ごめんね。人を待たせてるから、私はこれで」
私は動揺しているのを悟られないように、平然とした態度で村内さんの横を通り過ぎる。

