私の名前を呼びながらホテルから走って出て来たのは直幸さんだった。
「あの…どうかされましたか?」
近くで祖母と父親が何事かと言わんばかりに直幸さんを見ている。
ホテルの中からは、ガラス戸越しに社長婦人が優しい笑みを浮かべているのがわかった。
「僕がお送りします」
「え?」
「谷本社長、構いませんか?」
「あ、ああ…」
「ありがとうございます。麗奈さん、行きましょう」
まだ状況を把握出来ずに固まっている私の背中を祖母が押し、よろけるようにして私は直幸さんの隣りに並んだ。
私達はホテルの敷地を出て、無言のまま国道沿いを只管歩く。
隣りにいる直幸さんを見ると、向こうも私を見ていたのかバチっと視線がぶつかった。
「…あっ…」
恥ずかしさのあまり、すぐに地面に視線を逸らした。
徐々に頬に熱が帯びていくのがわかる。

