康君…
私は何度あなたに助けられただろう。
両親が離婚して、お母さんが出て行った後ずっと側にいてくれたね…
数え切れないほどの笑顔をくれた。
だけど、私は康君の気持ちには応えられない…
知ってしまったの…
人を好きになること。
その人を想うだけで胸がキューッて締め付けられて、意味もなく泣きたくなる気持ちを。
私の世界が彼一色になって、つまらなかった人生に光が差し込んだ。
彼がいないと、私はもう笑うことさえ出来ない…
「あんな酷い事しといて俺にそんな資格ないかもしれない。だけど、もし麗奈が許してくれるなら…俺はこれからもお前の専属執事として…いや、兄貴としてお前を守りたい」
額は離れるも、まだ拳一つ分の距離にある康君の整った顔。
いつもの冷静で頼もしい様子は感じられない。
こんなにも弱々しい彼を、私は今まで一度だって見た事があったかな…
「…駄目…か?」
康君の瞳が微かに揺れている。
私はただ頭を小さく何度も左右に振って“駄目じゃない”と訴えるので精一杯だった。
「…うん。ありがとう…」
康君は私の頭をふんわりと撫でてくれた。
その手があまりにも優しくて、私は涙腺が崩壊したかのように声を詰まらせながら泣いた。

