君のいる世界





すると顔を上げた康君は後ろを振り向いた。


真っ直ぐ私を見据えるその瞳は、少し潤んで揺れている。


そんな熱い眼差しから目を逸らせない。




「俺は…麗奈のことを…」



康君はそう言い掛けて口を噤んだ。


唇をギュッと噛み締めている。




暫しの沈黙の後、康君は瞼を伏せてふっと口元に笑みを浮かべた。



「俺には、この先の言葉を言う権利はねぇな」



目を開けた康君の表情は切なげで、心臓がギュッと掴まれたように苦しい。


視界がぼんやり滲んできて、唇が小刻みに震える。




「…そんな顔、すんなよ」



そう言って康君は運転席から身を乗り出し、角張った大きな手で私の頬にそっと触れた。


その親指が私の目をなぞる。


康君が触れていない方の頬にスゥッと涙が伝った。




「…っ、康…く…んっ……ヒック…ごっ、ごめ……「「麗奈」」



私の言葉を遮った康君は優しく微笑み、額と額を合わせた。


鼻がくっついてしまいそうなぐらい顔が近くて、こんな時でも私の胸の鼓動は加速していく。




「頼むから…謝んなよ…」



呟くような掠れた声からは康君の悲痛の叫びが聞こえた。