それにあんなやり方しか出来ない父親を、私は軽蔑する。
ハンガーに掛けてある潮の香りがする制服を見ると、さっきとは打って変わってズキッと胸が痛んだ。
どれだけ謝っても足りない。
谷本が会長の家族から奪ったものは大き過ぎる。
ーーーーーコンコン。
「お嬢様。そろそろ家を出るお時間です」
康君はいつも通りドア越しに声を掛けてくる。
私は一度深く息をついて、鞄を持ってドアを開けた。
康君は私を見るや否や、仕事用の笑みを浮かべる。
玄関を開けるとすでに父親専用の車はなかった。
私は玄関前に着けられた車の後部座席に乗り込み、見送りに出てきたトミさんと目が合った。
トミさんはいつもの安心する笑みを浮かべながら小さく頷く。
きっと康君と仲直りするのを応援してくれているんだと思う。
私もトミさんに返事をするように微かに頷いて見せた。
静かに車は発車して、いつもと同じ道を走る。
大通りの交差点では、腕時計を見ながら駅に向かって走るサラリーマンや学生で忙しない。
それとは反対に、車内はラジオも音楽も消していて静まり返り重い空気が漂っている。

