ガタッ!
父親が椅子から立ち上がる音で我に返った。
すぐに視線を料理に戻す。
スリッパの擦れる音が近付く度に、私の心臓の鼓動も大きくなっていく。
そして私の横で音はピタリと止まった。
「麗奈。昨日はーーーー…」
ガチャンッ!!
私は父親の言葉を遮るように、持っていたフォークとナイフを机に乱暴に置いた。
その衝撃で机の中央に飾ってある花瓶は揺れ、飲み物はコップの中で波を打っている。
「昨日、探してくれたのは感謝します…でも、車の中で言った事に後悔はありません」
私はそのまま父親を見ることなく、ダイニングを出て駆け足で部屋に戻った。
勢いよくドアを閉め、ベッドの端に腰を下ろす。
身体の重みでマットレスは沈み、スプリングがギシッと軋む。
あの人が心配してるのも感心があるのも 、私じゃなくて跡取りを生んでくれる道具。
大好物を覚えててくれたのだって長年一緒に暮らしてればわかることだもん。
今までの私への態度から、トミさんが言ったことを簡単に信じられるわけがない。

