「…っ…最低…」
目に溜まった涙が震える手の甲に落ちる。
次から次へと溢れる涙は止まることを知らない。
父親は下を向き、血管が浮かび上がるぐらい強く手を握ったまま肩を揺らしていた。
その父親の姿と自分の流れ続ける涙に怒りが込み上げてくる。
悲しくて、辛くて、泣きたいのはあなたでも私でもないんだから…
私は谷本財閥の人間として生まれて。
「…あなたの娘に生まれて……っ、恥ずかしい…」
絞り出すように紡いだ言葉は、本来ここまで不自由なく育ててくれた親に対して一番言ってはいけないことだった。
私は勢いよく車から飛び出し、呼び止める康君を無視して家に入った。
靴を脱ぎ捨て、スリッパも履かずに階段を駆け上る。
すぐ後ろからは康君の慌ただしい足音が近付いてくる。

