君のいる世界





「現場に続く一本道で大型トラックが事故を起こし通行止めになって救急車の到着が遅れた。裕二は…病院に着く前に息を引き取った……後から裕二はその数週間ずっと体調が悪くて、事故の日の朝は高熱で薬を飲んでいたことを知った。順調とはいえ無理なスケジュールで、裕二は自分は休みを取らず、その分他の作業員に休みを取らせていたらしい。私の…監督不行き届きだ。あの時、担当者を説得し、裕二を止めていれば……」



そう言った父親の声は震えていた。




いつの間にか家の門を潜っていた車は、玄関の前で静かに止まった。


同時に家から出て車に駆け寄る康君を、素早く運転席から降りたおじさんが制止する。



「私は子会社の経営の悪化で焦っていた。数千人の社員を路頭に迷わせるわけにはいかない…この計画は絶対に失敗させてはいけないと。あの仕事の取引先は谷本よりも大きい、今や日本のトップと言われる財閥の子会社だった。だから取引先の要望は何でも引き受けた。無理な施工スケジュール、安い人件費。下請け業者には有無を言わさず、半ば強制的だった」



私は目をギュッと瞑った。


会長の家族の笑顔が次々と頭に浮かんでくる。




あの幸せな家族から父親を奪ったのは、この人のエゴ。


実際に作業する弱い立場の下請け業者には無理を強いて、自分の会社の利益を得ることしか考えていなかった。


この人は保身に走ったんだ。