「私も現場を見に行っていた。作業は滞りなく進み、あの日の工程は夕刻を待たず早めに終わると思っていた。だが、急な雨に私は作業中止を決めた」
残りの作業は、雨天時は特に危険なため施工は中止しなければならないらしい。
でも取引先の担当者が、今日の作業はあと少しだから終わらせてくれと言い出した。
「裕二は、自分一人でもあと30分ぐらいで終わるから俺がやると言って聞かなかった。本降りになる前には終わらせるから先にホテルに戻って酒の準備でもしてろと」
だけど、一時間経っても会長のお父さんはホテルに戻ってこなかった。
携帯も通じない。
雨は本降りになり、風も強くなってきていた。
「妙な胸騒ぎがして、柳田を連れて急いで戻った……車から降りて現場に駆け寄ると…地面に横たわった裕二がいた」
会長のお父さんは父親が呼び掛けると目を薄っすらと開け、意識はあったらしい。
だけど土砂降りの雨に打たれた身体は体温を失い冷たくなっていた。

