君のいる世界





「…そうか」



父親はそれ以上、何も聞いてこなかった。




暫しの沈黙が車内を漂う。


この人に聞きたい事が山ほどあるのに、なかなか言葉に出来ない自分に嫌気がさす。




「何か、聞きたいことがあるんだろう?」



最初に沈黙を破ったのは、意外にも父親だった。




信号待ちで車が止まり、ルームミラー越しにおじさんと目が合った。


目を細めて柔らかく微笑みながら小さく頷くおじさんに、私も同じように頷き返す。



「どうしてあそこにいたんですか?」



私は父親を見ずに、フロントガラスに映る景色を見ながら言った。



「中澤さんのお父さんが事故で亡くなられた日、一体何があったんですか?」



父親は手に持っていた資料を鞄にしまい眼鏡を外した。




「柳田。少し遠回りをしてくれ」



そう言って、眉間を右手の親指と人差し指で摘んで小さく深呼吸をする。


車は家とは逆方向に曲がり遠ざかっていく。