父親は車に乗ってからずっと資料ばかり見ている。
私は隣りで紙の掠れる音を聞きながら、過ぎ行くネオンの街並みを眺めた。
夜の街には仕事帰りのサラリーマンやOLが溢れ、窓を開けなくても楽しげな笑い声が聞こえてくるようだった。
「麗奈」
今まで黙々と資料を見ていた父親に突然名前を呼ばれて、心臓が驚きでドキッと跳ね上がった。
ちらっと振り向くと、資料から目を離さずいつもの涼しい顔をしている。
自分から話し掛けてきたくせに私を見ようともしない。
思えばさっき霊園で会った時、数年振りに目が合った気がする。
もっと言えば父親が会長を見た時に見せた表情…
この涼しい表情が崩れたのはお母さんと離婚した以来、初めてのことだった。
父親は資料を捲り、新たなページを読み始めた。
老眼なのか、少しズラした眼鏡が父親を避け始めてから長い年月が経ったことを感じさせる。

