一通りお墓の掃除を終えると、会長は線香に火をつけた。
線香の独特な匂いが鼻を掠める。
白い煙が細長くゆらゆら揺れながらぼんやり浮かぶ半月に吸い込まれるように消えていった。
私達がお墓に手を合わせ帰り支度を済ませた頃には既に夕日は地平線に沈み、さっきまでぼんやり浮かんでいた半月が輝きを取り戻していた。
「いい眺めだね」
お父さんのお墓は海が見渡せるように建っていて、景色が最高に素晴らしい。
夕方は夕日が海を染め、今は街に明かりが灯って夜景が綺麗だった。
きっと朝から夕方にかけては太陽の日差しが海に反射して眩しいぐらいキラキラ輝いているんだと思う。
「親父、海が好きだったんだ。特にここの海は特別な思い出があるらしい」
「特別な思い出?」
「この海で親父は母さんにプロポーズしたんだって。夕暮れ時に、夕日で赤くなる海を見ながら」
会長は海を見つめながら懐かしむように目を細め、「カッコつけやがって…」と笑った。

