「ここが親父の墓」
会長は【中澤家之墓】と彫られた和型のお墓の前で足を止めた。
墓石の側面にはお父さんの戒名と命日が刻まれている。
「あれ?今日ってもしかして…」
「…そ。月命日」
会長はそう言って、桶から柄杓で水を掬い墓石に掛け始めた。
私は買ってきた花束の包装を取って、水をたっぷり入れた花立に挿した。
「サンキュ」
「…ううん」
口の端を上げて微笑む会長を見て、胸がズキズキと痛んだ。
“谷本財閥に恨みがあるから”
会長の言葉とその時見せた鋭く冷酷な目が頭に浮かぶ。
恨んでる理由を聞くって決めたのに結局タイミングがなくて聞けてない。
会長の恨みはお父さんの事故のことだと思うけど、康君の話を聞く限りあれは不運な事故。
でも、恨みを持つってことは他に何かあったってことだよね…
こんなにも優しい目で笑う会長を、冷酷な目に変えてしまう事って一体何?
それに、私はあなたが恨む谷本財閥の人間。
どうして私をここに連れて来てくれたの?
最近、私に対して優しいのはどうして?

