君のいる世界





私達は駅の近くでお供え用の花と線香を買い、海とは駅を挟んで反対側にある霊園に来ていた。


そこは丘になっていて駅から続く緩い坂道を登った所にある。


霊園に入るとすぐ客殿があり、そこに置いてある桶に水を入れた。




「閉園まで時間がないから急ごう」



客殿の時計は17時30分を指している。


閉園時間は18時、平日ということもあってか墓参りに訪れている人は私達以外に見当たらなかった。




霊園内は綺麗に整備されていて、植木や季節の花がたくさん植えられている。


風に乗ってくる海の潮の匂いとどこかで焚かれた線香の匂い、そして遠くで走る電車の音がゆったりとした安らかな雰囲気を醸し出していた。




墓地は数区画に分かれていて、それぞれを区切るように石畳みの道が通っている。


私達は緩やかな石段を登って丘の頂上付近にある会長のお父さんのお墓を目指した。




この石段からの眺めは最高で、平和な街並みと壮大な海が一望出来る。


海と街は今にも地平線に沈みそうな夕日で真っ赤に染まっているのにこの丘の上はやや薄暗い。


等間隔に建つ外灯が私達を照らし、石畳みにぼんやりと影を作っていた。