君のいる世界





「…そろそろ行くか」



そう言った会長は海を出て荷物の方へ歩いて行った。



「はぁ…」とため息をつきながら髪をガシガシと掻く後ろ姿が可愛くて、思わず笑みが漏れたのは内緒。





その後、海を出た私達は身支度を整えて海岸沿いの国道を歩いた。


遠くで夕刻を報せる童謡が流れている。


この歌を聞くと何故か寂しい気持ちになるのは私だけかな。




「ちょっと寄り道してもいいか?」



「いいけど、何処に行くの?」



「……」



会長は紺と朱色が入り混じった空を見上げた。


空には夕日が沈むのを今か今かと待ちわびているかのように、薄くぼんやりとした半月が高く浮かび上がっている。




「親父の墓」



少しの間を置いて静かにそう言った会長の横顔はどこか切なげだった。


そう見えたのはこの童謡と独特な空のせいなのだろうか…


胸が締め付けられるのを感じた。