「康介君。悪いが、私はまだ仕事が残ってるんだ。ここを頼んでもいいかな?」
社長と親父はそう言って足早に病室を後にした。
こんな時も仕事なのか…
そんな言葉を言えるわけもなく、ぐっと飲み込む。
「旦那様は不器用なだけで。顔色一つ変えないけれど、ああ見えて麗奈さんを心配しておいでなんですよ」
トミさんは俺の心情に気付いたのか、肩に手をふわりと乗せた。
その手は優しくて、俺の騒ついた心をスッと軽くしてくれた。
その後、トミさんは着替えやその他諸々を取りに家に戻った。
俺はベッド脇の椅子に座り、麗奈の額の汗を枕元に置いてあったタオルで拭った。
「うう…お…母さん」
汗を拭っていた手がピタッと止まる。
おばさんの夢を見ているのだろうか…
この数日、麗奈が笑うどころか話してる所すら見なくなった。
無理もないよな…
この時期は母親の存在は必要不可欠なのに、あんな無理矢理引き離されて精神的に不安定にならない方がおかしい。
俺は麗奈に一体何をしてやれる?
「…会いたいよ……んん…」
麗奈の目尻から一筋の涙が流れた。
濁りのない透明の綺麗な涙。
大人の我儘でこの涙を濁すわけにはいかない。
そんなの許されない…

