スーツを握ったまま胸を押し返したけどビクともしない。
もう…駄目だ…
康君に対する恐怖と初めて身体に芽生えた変な感覚にギュッと目を瞑るしか出来なかった。
スーツの襟を掴んでいた私の手は力をなくし、マットレスに沈む。
“麗奈”
突然真っ暗な闇の中、私の名前を呼ぶ会長の声が聞こえた気がした。
そういえば今日会長が初めて私の名前を呼んでくれたんだっけ…
名前なんて何度も呼ばれた事があるのに、会長に呼ばれた時はくすぐったいぐらいに嬉しかった。
今までは考えた事もなかったけど、自分が“麗奈”っていう名前で良かったって思えたんだ。
「…か、いちょう……」
嫌…
助けて……
目尻から涙が一筋、言葉にならない恐怖の代わりに流れ落ちていった。
すると康君の動きが止まり、スッと身体が自由になった。

