「…あの人が納得しなくても、私は明日から電車で通う」
仕事ばかりで私のこと今まで放ってきたんだもん。
今更何言われても私には関係ない…
私は瞬きもせずに康君の目をジッと見つめた。
重苦しい空気が漂う。
時計の針の音がやけに大きく聞こえた。
「…はぁ。本当、麗奈は昔からそうだな。決めたことは絶対に曲げない。まあ、そこが良い所なんだけど」
康君はさっきまでの怪訝そうな表情から一変、優しい笑顔を向けた。
それはまだ康君が私の専属運転手になる前の…お兄ちゃんの頃のものだった。
「こ、康君…?」
久しぶりに名前を呼ばれてドキッとした。
康君は専属運転手になってから、私をお嬢様としか呼ばなくなった。
それがお兄ちゃんがいなくなったみたいで凄い寂しかったんだけど…
「…ああ。もう終業時間だから。これからはただの幼馴染だろ?」
康君は私の表情を的確に読み取ったようだった。
時計を見ると18時を指していた。

