「あ、谷本さん!」
振り返った彼女は満面の笑みを浮かべた。
目を細め白い歯を見せて、まるで向日葵のように眩しい笑顔。
だけど、私は笑えなかった。
「…っ、山下さん……それ…」
山下さんの白い頬が赤く腫れ上がっている。
微かだけど手形のように見えた。
「あー…これ?何でもないの。ちょっとボーッとして柱に激突しちゃってね」
山下さんは隠すように手で赤くなった頬を摩った。
「…叩かれたの?今降りてった人達に…」
「……」
「私なんかを庇ったから…」
悔しくて、情けなくて身体が震える。
どうして何も悪くない山下さんがこんな目に合わなきゃいけないの…?
こんなの…あんまりだよ…
「違う!谷本さんのせいじゃないよ!?…私が許せなかったの」
山下さんは再びフェンスに手を掛け、空を見上げた。
心なしか濃い灰色の雲がさっきより薄くなった気がする。
雨の前の独特な匂いも薄くなりつつあった。
「私の大切な親友を傷付けたから」
大切な…親友…?
山下さんは私の事、そんな風に想ってくれているの?
山下さんの言葉が心に染みる。
陽の光が差し込んだように胸がぽかぽかと暖かくなっていった。

