「…私、行かなきゃ」
もしかしたら山下さんが私のせいで辛い思いをしているかもしれない。
今度は私が山下さんを助ける番だ。
私は木製の扉に駆け寄り、取っ手に手を掛けた。
「谷本」
扉を引きながら振り向いたけど、会長の顔はソファの背凭れに隠れて見えなかった。
その代わり、暖かくて優しい声が耳に届いた。
「…良い友達、持ったな」
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三階と屋上の間にある踊り場には、屋上へ続く扉の上の細長い曇りガラスから光が漏れ若干明るくなっていた。
さっきまで雲行きが怪しかった空も、今は青空が見え始めているのだろうか。
曇りガラスは空の青を映していた。
あまり争い事は得意じゃないけど、今山下さんは私の為に闘ってくれてる。
だから私も逃げてばかりじゃ駄目なんだ。
大切なものを守る為に強くならなくちゃ…
私はゴクッと喉を鳴らし、灰色の扉から目を離さずに一段一段踏み締めながら階段を登り始めた。

