「先輩に…?どっちに行ったかわかる?」
「階段を登って行ったので屋上だと思います」
彼女は私を一切見ずに俯いたまま、おずおずと屋上を指差した。
嫌な予感が頭を過る。
「…屋上ね。ありがとう…えっと」
「村内典子です」
「そう、村内さん!本当に助か……ったわ……っ!!」
その瞬間、彼女がふっと口の端を上げて笑った。
一瞬目が合っただけなのに蛇に睨まれたように村内さんから目が離せない。
「…あ、あの〜」
先生の申し訳なさそうな声にハッ我に返った。
「あ…えっと、授業中にすみませんでした。失礼します」
私はスライド式のドアをゆっくりと閉め、残り数十センチ程の所で手を止めた。
村内さんは既に椅子に腰を下ろし姿勢良く黒板を見据えている。
今の視線…一体、何だったの……?
レンズ越しに目が合った彼女の瞳が、まるで別人のようだった。
獲物を捕らえた猛獣のように鋭くてギラリと光った気がするんだけど…
それは、彼女の風貌からは到底想像出来ないような瞳だった。
私はまだこちらを見ている先生に頭を下げて、静かにドアを閉めた。

