【1】



「ローラントのばかぁー」



「…………」



「ローラントのあほぉー」



「…………」



「ローラントの」



「ええいうっとおしいわ、いい加減にしろこのタコ!」



「また言った、タコって言った!!」



ローラントの悪口を述べるたびに、座り込んだ鉄錆を剥がしたレンガのかけらが鈍い音をたてて地面におちた。



え、どこにいるの、と聞かれれば、時計台の短針の上に二人並んで腰かけている。



身の危険よりも見える景色が奇麗だということを優先して、街の壮大な景色を一望するには時計台はもってこいの場所であった。



街の中央付近では、まだ市場が賑わいを灯している。



もともと活気のある街だから、戦争による悲しみも表には出にくいのだろう。



『こちらに帰ってきて』まだ間もない二人は、それまで永く身を置いていた田舎の静かな町と比べ、その熱がとても新鮮だった。



余計に、その熱気に混ざることが憚られる。



悲しい運命と、そう言い張るしかなかった。