…自分だってそうさ。



クリストハルトは自嘲気味に唇を釣り上げた。



見上げた白亜の聖母は、光の照らし具合の所為か祈る彼を嘲笑っているように見える。


彼とて実際的な男に過ぎず、宗教はしょせんお伽噺程度としか考えてはいない。




背中ですすり泣く女の声が、二重三重となってクリストハルトの背中に押しかけ、潰れそうな思いで彼は振り返った。



「もういいのかい」



神父様が訊ねる。



沈黙と頷きを持って返答すると、神父様はまるで息子を送り出すような暖かな瞳で、クリストハルトの碧眼をじっと見つめた。




「神の御加護があらんことを」




十字を切り、神父様は恭しく目を閉じた。




…そんなものあるものか。



これから人を殺しに行く男に、どんな栄光があれどんな功績があれ神が加護を寄越す筈はなかった。



これから自らは人道に反する。



剣を持って最後、人には戻れまい。




それでも彼は戦争に参加する価値を見出した。