「君はとても優しい人です」
ノエルは、穏やかな声で語る。
その声は歪みのない聖人の、まるで神父のように暖かく、胸の内部からなにかを呼び寄せるような不思議な声色だった。
「だから騎士団でも、きっと成功『した』んだろうね」
細められた目に浮かぶのは、波打つ海のような慈しみ。
慰めるかのような彼の表情に、クリストハルトは驚いて目をぱちくりさせた。
「クリストハルト、だから君はこの帝国にとって死んではいけない人物なんだ。
書のルールを犯してでも君を生かさなければ、君の両親も弟も、そしてこれから出会うであろう大切な友はすべて死んでしまう。
君は、犠牲を払ってでも生きなければならない」
俯いたクリストハルトの頭が、未来を語るノエルの言葉に持ち上がった。
「それはどういうことだ」
「…歴史書‹ルールブック›を読み上げるのは、あまり好きではないんだけれど」
はあ、とため息がもれた。
しかしそれに伴って、諦めの表情も窺える。
「いやでも、これは仕方がない場合だよね絶対。
この短期間で入団を阻止しろなんて事実を述べるしか信じてもらえる方法がないじゃないか、うん、仕方ないんだ絶対、これは正義だ正義だよ正義、正当にしてやって然るべき対応なんだよだから怒られても俺悪くないんだからね!
責めないでよ!」
「…誰に言っているんだ」
「いいかいハルト、よく聞いてほしい」
「略すな」


