オリゾン・グリーズ




「俺にも兄弟がいる」



クリストハルトは、その兄たらしい幸せそうなノエルの顔にかつての自分を重ねた。



「弟は戦争に行った、数年前にな。
騎士団の招集があってそれについていき、以降連絡はおろか消息も途絶え死んだものと思っている。

俺は長男だからという理由で街に残されたし、本当は着いて行きたかったけれど兄弟そろって戦場に立つと私情が挟んで判断を誤る可能性があると、招集員に断られた」



「………」



ノエルは背もたれに身を預け、黙って彼の言葉を聞いている。




「本当に後悔している。

弟は気の弱い性格で、英雄になって帰ってくると見栄を張っていたが本当はたまらなく怖かっただろう。

俺よりもあいつのほうが親父の手伝いをよくしていたし、本も好きできっといい跡取りになった。

俺が代わりに行ってやれば、あいつは今親父とともに古代の歴史について真剣に、そして充実した生活を送っていられただろう。


奴がいなくなったことが酷く悲しい。


それは多分、俺たちに限らずこの国全土にわたって同じような後悔と悲しみが渦を巻いている。


それを終結させるには、結局戦争で勝つしか方法はないんだ」




膝の上で重ねた立派な五本の指は、こみ上げる感情を抑えているらしく、小刻みに、哀しく震えていた。



『戦勝に貢献すれば弟も報われるかもしれない』。



父を裏切ってまで戦争に赴く価値は、ただそれだけに見出した。