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赤の国と呼ばれる西方の帝国ラムルでは、青の国シードルとの戦争に近年疲弊し始めていた。



およそ100年にも及ぼうかという大戦線はいまだ優劣の決定を許さず、民に不穏な暗雲を被せ続けている。



皇帝領の街のほとんどで騎士団の参加者を募り、教会には国を守るため戦いに出た家族への帰還を祈願する女たちで日々溢れ返っていた。



彼らは、国が何のために争いを続けているのか、もはや記憶の隅にも残っていない。





クリストハルト・エミーリアは齢26歳、考古学者の父を持ってしかし、国の戦争のために本日をもって街を去る決意をしていた。



長男坊の彼は、街に残ろうと思えば残って居られたのだ。




聖母の偶像の前で跪き、彼は祈り続けた。



この国の平穏を。



そして家族の平和を。




街の若者は殆ど騎士団への参加を拒んだ。



およそ実際的になってきた今日の彼らは、さだめし殺し合いなど下らないと決めつけてしまったに違いないのだ。