翼は私が嬉しそうにはしゃいでいる様子をただ、優しい目でみつめていた。そんな翼の目をみて、はっと我に返る。

「あああああ!なにのんきに誕生日の話なってんのよ!私が話したいのはさっきの話!!私正樹の彼女だよ?そんな協力しない、っていうか私じゃない人にいってよ。」

ちょっと口を尖らせて、翼を見た。翼はきょとんとしたまま、その表情を変えることなく固まっていた。

「へえ。でも正樹、晴笑と俺がキスしたの知ったら悲しむだろうな?それ、正樹に知られたら、お前はもう終わりだ。ただ、お前は俺の指示に従えばいい。」

「…!!!!」

確かに、そうだ。いくら翼から無理やりキスされたなどといっても、キスはキス。誰からしたとか、そういうことは関係ない。キスをしたという真実はもう、なにをしても変える事はできない。


もし、キスをしたというのが正樹にばれたら正樹は、どんな顔をするだろう。もう、なんとなく想像はつく、ものすごく辛くて、苦しそうな顔をして笑うんだ。無理して笑っている正樹の顔を見るのは何よりも嫌いだ。


だから、キスしたということは何がなんでも隠さなければならない。

大きく私はため息を付いた。

なんで私はバカなんだよ…。キスされないようにしなきゃよかったのに。隙がありすぎだったんだろう。こんな私の不注意に正樹を巻き込むわけにはいかない。そしてもうバカにはなりたくない。だから、だから、私は、


「橋場翼!!!!!」


広い翼の家に私の声だけが響き渡る。

もう悲しませたくない。そしてキスしたことも忘れたい。っていうか忘れさせてよ!!


忘れないと、私が私でいられないよ


「私にもう話しかけないで」



だから………………



こうするしかなかった。



これ以上関わるな



そう私の脳内で指示を出す声がきこえた。