「ふぅー。ぎっりぎり。」


私と翼は息をきらしながら、映画の席をとった。席はいちばんいい、通路側の席。


「翼はさー。モテるよね。」

映画のコマーシャル中。私は小声でそういった。


「俺は一人に好かれたほうがいいと思うよ。」


「でもさぁ。モテるひとは、うらやましいよ。」


「ふはっ。そりゃどーも。」


翼は笑ってポップコーンを口に入れた。


ほんのりと、キャラメルのいいにおいがした。



「舞ちゃんとは、いつから付き合ってたの?」


「ん。中二。」


中二かぁ。ずいぶん長くから付き合ってたんだね。



「どっちから告白したの?」


「俺からだよ。」


そう言って翼は、この映画面白そうと目を輝かせた。


「どこが…よかったの?舞ちゃんの。」


聞いてはいけなかったかな?そう思ったけど、でもやっぱり聞きたかった。



「あいつ、一回事故にあいそうだった小学生を助けたんだ。」


「え?」


翼は真剣な顔をして、話しはじめた。ゆっくりと。ゆっくりと。




それは、翼が中二のとき、いつものように、徒歩で学校に向かっていたそうだ。その時、小学生の何人かで横断歩道を渡っていた。信号が赤に変わろうとしているとき、一人の男の子だけが横断し遅れた。その男の子は、まだ赤になってないから、横断できるだろうと、思ったのだろう。



その男の子が横断しようとした瞬間。信号は赤になって、車がやってきた。



翼はその時、危険を感じて、その子供の所へいこうとした。でも、怖くて足が動かない。