晴笑side


「そんなこんなで……ほんっとゴメン。晴笑」


正樹はそういうと私に向かって深々と頭を下げた。


んー。でも、よく考えてみると、それって正樹がいけなかったんじゃなかったんじゃない?正樹は、もう春香ちゃんってこと付き合ってないと思って、私と付き合ってたんだよね。二股……かもしれないけど、それは、ただの勘違いから生まれたものだから、正樹は悪くない。




「あ。そうだったんだ。じゃぁ。正樹は悪くないよ。」



私は頭をさげている正樹にそっと言った。正樹はゆっくりと顔を上げる。とっても申し訳なさそうな顔をしていた。


気がつけば、雨は小雨になっていて、雷もなくなっていた。



「よかったぁー。ほっとしたよ。」



私は、今までの不安という荷物をドスンとおろした、とてもすがすがしい気持ちで正樹に言った。ほっとした。本当に。私の今までのもやもやはなんだったんだろう。


そう思って私は正樹の腕を掴もうとした。が、正樹は私の手を振り払った。たぶん、一瞬の出来事だったと思う。でも、私にはかなりのスローモーションで見えた。




「ごめん。」



いきなり謝る正樹に私は動揺した。なんで謝ってるのかわからなかった。だって正樹、全然悪くないし。

「え?何が?」


そう言っている私の顔、たぶんすごい顔になってるだろう。


「俺、これで最後にする。」


正樹は、私の目を見ることなく、グランドの土をシューズでいじり続けた。



ドクン・・・・



「な…に…を?」


なにいってるの?正樹全然いみわかんない。最後ってなに?ちゃんと……ちゃんと説明してよ。


そう思ってると正樹の口がゆっくりと開いた。そして、衝撃の一言が告げられた。


「俺は春香が好きだ。中学の頃からずっと。このことが知られてしまったとき、話そうと思ったんだ。ごめん。でも、晴笑のこと、好きだって気持ちは、嘘じゃなかった。」



え?正樹は、春香ちゃんが好き………?



校舎からは、はやくもどってこーいと叫んでいる先生の声がかすかに聞こえた。グランドにいるのは私と正樹だけ。ほかは、誰もいない。広いグランドは私達二人をじっと見守っているようだった。


そして、すこし時間がたって、私も正樹の言葉の意味を理解したとき、なぜかき持ちは軽かった。

「……ばぁぁぁぁーーか」

そういって私は、あっかんべーをすると、そっと涙をふいた。

悲しいはずなのに、くやしいはずなのに、心はなぜか軽かった。

春香っていうひとは、きっと正樹のなかではなくてはならない存在なんだよね。どうしても愛しくて、愛してるひとなんだよね。だってさ、正樹の表情、すっごくキラキラしてるんだもん。



私といるときには見せなかった、まるで春香ちゃんが正樹の心の中の笑顔の鍵をあけてくれないと見れないみたいな、そんな笑顔。



春香ちゃんじゃないと、あけれない正樹の心の鍵。


私には持ってない。もってるのは春香ちゃんしかいないんだよね。





「春香ちゃんと……幸せになってよね。」



本当はもっと、違う事言われるんじゃないかって思ってた。晴笑のことあきたから、他の人と付き合ってた。とか、晴笑のこと嫌いだったとか。遊びだったとか。そういわれると思ってた。でも、よかった。



“晴笑のこと、好きだって気持ちは、嘘じゃなかった”



そういってくれて。よかった。今までの時間。ドキドキした気持ち嬉しかった気持ち。全部無駄じゃなかった。



春香ちゃんと正樹、きっと幸せになれるよ。



「ありがとう!!!!」



私は大きな声で正樹に言った。



正樹は嬉しそうに笑って去っていた。



今の笑顔は春香ちゃんに向けられたものじゃなくて、きっと私にむけられたもにだよね。



ありがとう。ありがとう。ありがとう。








そして、さようなら。