続・結婚白書Ⅱ 【手のひらの幸せ】



病院に着くと 気の早い母親たちがそろっていた

俺のお袋と広川のお義母さんが ゆったりと挨拶を交わしている

診察の結果 軽い陣痛が始まっているので このまま入院しましょうとのこと

いよいよきたか…… 

そう思ったら 急に落ち着かなくなってきた



「初産だし そうそう簡単には産まれないものよ 

会社から帰ってきてもまだだと思うわ

出産が早まりそうだったら すぐに電話するわね」



こっちは心配ないから仕事に行っておいでと 母親たちにその場から

追い出されてしまった

そう言われても この落ち着かない気持ちをどうしたらいいんだ

会議に出席しても上の空

ポケットの携帯に何度も手を伸ばし いつブルブルと震えだすのかと

気が気ではなかったが こんな時でも腹はすくものだ

午前中 仕事にならない仕事をし 空腹を抱えて社員食堂に足を踏み入れた

途端  その電話はきた



「もしもし 生まれそうなの?」


「それが……生まれちゃったの あっという間でね 安産だったのよ」



お袋ののんびりした返事に 俺は気が抜けた

とにかくそういうわけだから ゆっくり病院にいらっしゃいと 

お袋は締めくくり電話が切れた

生まれたぁ? ゆっくり来いって悠長な……そんなこと言ってる場合かぁ!

喜びと怒りがない交ぜになった感情を携帯にぶつける


忘れていた……ここが大勢の社員が集まる社員食堂だって事を……

思わず大声で電話に出た俺の声は 周囲に筒抜けで その後 

”おめでとう!” の声に包まれた



「生まれたのか 良かった 良かった それで円華さんは?」


「安産だったらしいです なんだか早い出産だったらしくて……」


「それで 生まれたのはどっちだよ 早く教えろ!」



例のごとく先輩三人組に腕をつかまれた俺は 言うか 言うまいか

しばらく考えた

うーん どうせわかることだし……



「女です じゃぁ 俺 これから病院に行きますので」



脱兎のごとく食堂を逃げ出した

先輩たちの大きな声が背中に当たる



「工藤 今度俺達にも会わせろ いいな」



大事な娘だ 先輩たちに会わせられるか

廊下を早足で歩きながら これから会う子どもの顔を考えた

女の子は父親に似るって聞くけど 俺に似た顔だろうか 

円華に似てるといいけどなぁ

体はどうだろう あまり大きかったら可哀相だな

いや 手足が長ければモデルにだってなれるな 

運動選手もいいかもしれない


こんなことを考える自分が可笑しくもあったが 楽しい想像しかでてこない

あれこれと想像しながら病院への道を運転した