続・結婚白書Ⅱ 【手のひらの幸せ】



「今夜は息子達が二人ともいないの こんなの久しぶり!

帰りを気にせず飲めるっていいわぁ ジャンジャンいきましょうねー」



円華の快気祝いと言いながら 玲子さんが一番楽しそうにしている

だけど こうやって三人で飲むのは 本当に久しぶりだった



「工藤君 今夜は医者が二人もついてるんだから安心して

まどちゃんの体調が悪くなったら 即対応するから」


「悪くなってからじゃ困りますよ 

それに 玲子さんが先に酔っ払ったら意味ないじゃないですか」


「大丈夫 大丈夫 私が酔いつぶれてもダンナがいるから」



あとで玲子さんのご主人の冨田先生も来てくれるそうだ

冨田先生には親父のことでずい分世話になったが 

一緒に酒を飲むのは初めてだ 



「玲子先生と冨田先生って 大学の同級生なの? どこで知り合ったの?

そう言えば 馴れ初めって聞いたことなかったわね」


「ウチのダンナ? 私よりひとつ上よ 研修で一緒になったの 

あの頃から全然変わってないわねぇ」


「そうなんだ 若い頃からあんな感じなんだ 優しかったでしょう」



胃に負担の少ない料理にしましょうと 玲子さんが選んだ店は 

居酒屋よりずっと静かで 料亭ほど気取ってはおらず 

すべてが個室になった割烹で 地元の新鮮な野菜をふんだんに使った料理が

自慢だと 玲子さんの舌はなめらかだった

地酒の入った猪口を口に運び あぁ美味しいわぁ~とつぶやいたあと 

昔話を始めた



「勤務先は別だったんだけど 研修の打ち上げで隣りに座ったのが始まり

穏やかな人でね 私の話をなんでも聞いてくれるの 医者には珍しいのよ 

あんなタイプ」


「あっ わかります 冨田先生って こっちの話をじっくり聞いてくれるから 

すごく安心するんです」


「工藤君 褒めてくれてありがとう 

でもね いいところばっかりじゃないんだなぁ~これが」


「そんな贅沢よ 玲子先生って大事にされてるでしょう 

私と遊びに行く時も ご主人反対しないじゃない 

ゆっくりしておいでなんて 電話の声 聞こえてるのよ」


「今はいいわよ ダンナにするには最高ね 

だけどねぇ 恋人だと う~ん じれったいのよ」



地酒のアルコール度数が高いのか 今夜は酔いが早いようだ

玲子さんの ほんのり染めた頬がピカピカしている 

円華はウーロン茶片手に 身を乗り出して相槌をうっていた



「研修のあと電話が来るようになってね いわゆるお付き合いが始まったの

それなりに楽しかったわよ あんな人だし 

私の言うことを否定なんかしない いっつも穏やかで優しくて」


「それで どこがじれったいの? 

あーもぉ 玲子先生の方がじれったいわね 早く話しなさいよぉ」


「うん 付き合って三年目に 彼が離島に転勤になっちゃってね

私としては そろそろ結婚かなぁ~って思ってたから 待ってたの 

プロポーズ」


「聞きたいわねぇ 冨田先生の愛の言葉 あの真面目なお顔でなんて言ったの? 
ワクワクするわね」