ワンフロアずつ、慎重に階を上がっていく。千里達の足音がカツカツと響く。
「アリスさん...いくらなんでも静かすぎませんか?さっきから警備兵も見当たりませんし...」
それは、千里だけではなく隊の全員が感じていた事だ。
ここは軍司令部。それなりの人がいて然る者だ。現に突撃時にはsemが出てきたのだ。
「そうね...でも司令室まで何事も無く辿り着けたら、それはそれでラッキーよ。」
アリスは冷静さを欠いてはいなかった。
一同はそのまま階段を駆け登っていった。
「なんか怖くなってきたよ千里...」
美穂が弱音を吐いた。それほどまでに静まり返っている、という証拠でもあった。
「大丈夫、みんながいるよ...」
アリスが言った通りすんなりと司令室前に辿り着いた。
ドアを爆破し、全員が室内へ突撃する。
「全員、手を上げて!」
アリスが叫んだ瞬間、アリスは目を疑った。
誰もいないのだ。司令室に、誰も。
司令系統の機械も稼働していない。
「いったい、どういう事...?」
千里には何が起こっているのかわからなかった。まさか、失敗したのか?semの行動範囲や進行度合から割り出した位置が間違っていたのか?
千里は思考を巡らせた。
突入前から察知されていたのか?そんな筈は無い。外へ逃げたのならヴィルフリート達が発見している筈だ。
なら...何だ?一体何が起きてこのような状況になっているのか。
まさか、semには司令部など存在しないのではないか?
いくら考えても結論が出ることはない。
意味のない推測がただ頭の中を延々と廻るだけだ。
「....そこ」
永遠の様に感じられた緊張を破ったのはオルガの放った銃声だった。
切れた静寂の糸を飛んだ銃弾は、物陰に隠れていた人らしきそれの胸に着弾した。
倒れ込んだ物体にアリスが近づこうとする。
「...待って。」
アリスの行動を遮るようにオルガは言い放つ。そして再度、銃弾を人らしき物の頭に叩き込んだ。
「オルガ!なんで殺すの!捕らえ情報を引き出せるかもしれないのに...」
「....こいつ、人間じゃない。」
アリスが言い終わるより前にオルガが言う。
「どういう事ですか...?人間じゃないって...」
動揺した千里は言う。これはどう見たって人だ。それが人ではない?理解できるはずもなかった。
「...言葉通りの意味。こいつは人間じゃない。こいつはsem。私達の敵。」
「どういう事ですか!?semは人間に直接影響を及ぼさないんですよね!?研究でもそう...」
「...それは...多分違う。semは...」
そうオルガが言いかけた時だった。
「話は後...今は奴らを片付けるのが先。」
さっきまで静まり返っていた室内に、大量の人間が押しかけていた。
「奴らの目を見て...焦点が定まっていない。それに...」
オルガが先陣を切って走ってくる人間の足に銃弾を叩き込む。
「痛覚を感じていない。こんな事、人間にはできない...」
足を撃たれてもそれは走ってくる。
「つまり...」
アリスがそれの頭を撃ち抜いた。
「奴らはもう人間ではない。行動を止めるには頭を潰すしかない...まるでゾンビね。」
アリスが苦笑を交えてそう呟く。
「例えこれがsemでなくても、戦わなくてはならないみたいですね...」
千里も続く。
「わ、私だって!」
美穂も虚勢を張る。
「全員、兵器使用自由!外のヴィルフリート達に援護を要請するわ。それまで持ちこたえて!」