熱い火の中、何が起こっているのかと、必死に逃げるぼくは彼に問うた。


「もう全然わかんねえ!」


振り返ってぼくに言う彼のその顔は、不安でいっぱいだった。


「胴着の洗い損ねたやつ見つけたから洗ってたら、道場の方で火が見えてっ」


ドタドタとぼくらは逃げ回る。


「道場についたら仲間は血流して、息あるやつは逃げろとしか言わねえしっ」


どたどたと走って外へ出ようとしているのに、なかなか外に出られない。


ぼくがいた道場は、こんなにも広かっただろうか。


「花と紐紫朗が縁側にいるっていうからっ、」


彼の目には涙が溜まっていた。


「どうすればいいのか、全然分かんねえ」


それを見て、ぼくは同じだと思った。


ここの状況が分かっていないのも、不安なのも、これからどうしていけばいいのかも全然分からない。


何をどうすればいいのかも。


一体、これはなんだ。


彼が連れて行ってくれた裏山の蔵の中で、息をひそめてぼくらは縮こまっていた。


「ここにいたら気づかれないだろ、落ち着くまでここにいよう」


「…うん」


しめった空気が肺を満たしていく。


少し埃っぽいにおいと鉄のような、怪我した後に出る黄色い汁のにおいとが混じった、複雑なにおいがした。


ところどころ蜘蛛の巣があって、ずいぶんと使われていないようだった。


大きな箱のようなものの近くに腰を下ろすと、彼が戸を閉める。


夜の森を走っていたから、暗闇に目がなれたと思ったけど、ここでまた、暗闇に包まれた。


聞こえるのは布のこすれる音だけだった。


「……………………」


ーー何か用?


初めて花と出会ったときのことが、脳裏を駆け巡る。


あぁ、ぼくは、なんてことをしてしまったのだろう。


どうして、あんなことをしてしまったのだろう。


どこで、間違ったんだろう。


「なんで、」


彼が口を開いた。


「…いや、なんでもない」


とても、苦しそうな声だった。


何かを言おうとして、やめていた。


ぼくはその言葉の先を詮索する気にはなれなかった。


「紐紫朗、」


ひどく、時間がたつのが遅く感じた。


なにも、音がせず、風もない。


汗はすこし乾いて、少し肌寒かった。


「紐紫朗、それでも花は、幸せだったと思う」


「…え?」


長い間のあと、彼はポツリと言った。


意味が分からない。


彼の方を見たけれど、彼の顔おろか、彼の姿さえ見えない。


「なにが、言いたいの」


自分の声がかすれていた。


引っ込んだ涙が、また出てくる。


ドクドクと脈打つ鼓動が速くなっていくのを感じた。


「きっと、自分を責めているんだろうなと思ったから」


「……っ…」


彼の声も震えていた。


「なんで…っ、そんなこと言うの…?」


だって、花はぼくが。


「んなの、花の顔見りゃ分かるし、何年一緒にいると思ってんだよ。お前より長えんだぞ」


「……なんで、責めないの…」


「…俺がおまえを責めて、花がかえってくれば、何度だって責めるさ」


言葉が、見つからなかった。