口調は優しいが「NO」とは絶対に言わせない話術を持っている。



 きつく鍵を掛けた扉がガタガタと音を立てる。



 静まれ…。今の私に何が出来る…。



「君島さん」
『はい』



 デスクへ向かうと部長は処理書類を片付けていた。大きな事をしてきたのに鼻に掛ける事無く次の仕事を進めている。



「ありがとう」
『いえ…』
「今後とも宜しくと言われたよ」



 下村社長にそこまで言わせるなんて。営業1課でも居ない。



 どんな形でもこの人の元で働ける事が嬉しい。自分を向上させる。もしかしたらあの傷すら…。



「これから忙しくなる。フォロー頼むよ」
『はい』



 直ぐに返事をした。直後「でしゃばるな」と頭の中で響いた。



「皆、聞いてくれ」



 その声にハッとした。下を向いてはいけない。



「暫くの間残業が増えるかもしれない」



 ザワザワと声が広がる。残業なんて此処数年してない人ばかりだ。



「このプロジェクトが成功したら社長賞は間違いない」