デスクの下にある手で拳をグッと握る私に、受話器の向こう側でうんともすんともいわない副社長代理。
―――――、昔は何度も目で追った姿、未だに褪せない。
整った顔立ちに、愛嬌のある瞳
黒くてまっすぐな髪は、風が吹けば柔らかくなびく
そのスペシャルフェイスが180という長身の身体に乗っているものだから、言わずもがな女子は放っておかない。
風の噂だと空手と剣道は段持ちだとか。
非の打ち所がないとはこのこと。
そんな彼に恋をしたのは私だけではない。
この会社、否会った女性全ての視線を独占し続けているんだろう。
で、そんな副社長代理さまさまがどうして、会社の末端である資料館管理部の『美咲 栄』に求婚しなくてはいけないのかが皆目謎。
もっといるだろ!秘書課のエロスなお姉さまとか営業戦略のハツラツ美人さまとか!
とにかくあり得ない。
「ご用件はそちらで以上でしょうか?
他になければ失礼いたします」
黙りこくった彼をいいことに、受話器を耳から外そうとした時、
「絶対に結婚する」
聞こえた声に心が震えた。
そんな自分が信じられなくて、早く逃げ出したいあまり、ガチャリと電話を切ってしまった。