水面に浮かぶ月



内藤は、今日も予告なしに閉店後の『cavalier』にやってきた。

光希は仕方がなしに、いつも通りに人払いをして、バーボンを作ってやった。


内藤が来るというだけで、それが楽しく世間話をするためではないことはわかっていたが、



「で? 今日のご用件は?」


いつまでも続く沈黙に耐え切れなくなり、先に切り出した。

内藤はにやりとし、「単刀直入に言うぞ」と、光希を見やる。



「お前、クスリ売ってるリョウって野郎、知ってるだろう?」

「えぇ、まぁ」


うなづいた光希に、内藤は、



「最近、ちょっとデカい顔しすぎてやがる。正直、こっちもそろそろ目ざわりなんだよ」

「………」

「だが、やつの持ってるクスリの入手ルートと顧客は魅力的だ。それはどうあってもこっちが手にしたい」


つまりは内藤は、光希に、リョウの情報を要求しているらしい。

また面倒なことになったなと思った。



「どうにかしてくれねぇか? 光希ちゃんよぉ」


にやにや。


ちっとも困っていなさそうな顔で、面倒事をすべて光希に押し付けて、内藤は、楽をして欲しいものを得るつもりらしい。

都合よく使われているなと思いながらも、そうは言えない。



「情報を手に入れた後、リョウはどうします? 殺すんですか?」

「いや、商売できなくさせる程度でいい。やつが死んだら、サツから真っ先に疑われるのは、俺たちだからな」


殺さず、でも生かすことなく、情報だけを盗んでこい、か。

はたしてそんなことができるのか。


だが、光希は「わかりました」と言うしかなかった。