水面に浮かぶ月



仕事を終え、透子は光希に電話を掛けた。



「ねぇ、光希。助けてよ。私、今、すごく困ってるの」

「どうしたの?」

「『Club Brilliance』を――私を、潰そうとしてる女がいるの」

「どういうこと?」

「その女は、わざわざお店にまで乗り込んできて、私に宣戦布告をしたのよ? こんなに腹が立つ話はないと思わない?」


透子は、思い出したように怒りが再燃した。

光希は電話口の向こうで少しの沈黙を作った後、



「誰?」

「『club S』のナンバーワンだった、マナミよ。今は『Anemone』でチーママをしているらしいんだけど」

「………」

「とにかく許せない。あの女は、私と光希の夢を壊そうとしているんだから」


息巻く透子。



「そうだ。麗美の時みたいに、マナミをレイプしてよ。面倒なことをするより、それが一番、早くて効果があるでしょう?」


マナミの泣き叫ぶ姿を想像するだけで、透子は歓喜しそうだった。

だが、光希は、電話口でまた少し、沈黙を作った後、



「今は無理だよ」


透子は耳を疑った。

ありえないという気持ちだった。



「どうして? 簡単なことなんでしょう? あの時だって、光希は」

「あの時と今とは、状況が違うんだ」


光希はたしなめるように言う。



「確かに俺だって、その話は許せないと思った。今すぐにでも、マナミって女をぶっ殺してやりたいよ。でも、動けないんだよ」