たしなめるように制する光希。

光希は強く透子を抱き締めた。



「思い出さなくていい。透子はね、俺のことだけ考えてればいいんだよ。そしたら辛いことなんて何もない」


いつもそう。

いつも、いつも、光希はそんな風に言っては、透子の悲しみを拭ってくれるから。



「不思議なものね。14年よ? 親と過ごした時間の倍、私と光希は一緒に生きているなんて」

「これから先、何倍もだよ。俺たちは、ずっと一緒だ」

「死ぬ時も?」

「あの世でも、生まれ変わったとしても。永遠に」


想像してみる。

悠久の時の中で、光希と一緒にいられる幸せを。



「次に生まれ変わったら、普通がいいわ。普通に両親がいて、欲を言えば広い庭で犬を飼っていて。そして、笑顔が溢れている家庭」

「そうだね」

「そこで、私と光希は双子して生を受けるの」


光希はふっと笑った。



「去年の誕生日も、透子は同じことを言ってたね。血の一滴まで俺と同じがいい、って」

「だって、もうこんな、織姫と彦星のようなことは嫌なんだもの」


言ってはいけないと、わかっていたはずなのに。

なのに、それでも、言葉は口をついていた。


光希は笑顔を翳らせ、また、静かに「そうだね」と返す。



「でも、もう少しだよ。もう少ししたら、俺たちは」


苦しげに言う光希を、今度は透子が強く抱き締める。


幸せになりたかった。

何もかもを、そのためだけに捧げ、生きてきたのだから。