事件は、更にその5分後。
「いい加減もう諦めようよ、坂井さん」
黒いコートに身を包んだきーさんが自分の傘で地面をカツカツ叩きながら諭す。
一方のふーみんは相変わらず肩を落としながら傘立てを見つめている。
なんていうか、ふーみんはもともとなで肩なのでかなり急斜になっている。
両肩にかけられたリュックが片方落ちそうになっている。
「今日は特別に俺の傘に入れてあげるからさ、ね?」
「・・・・・・」
ふーみんの落ち込みようがハンパない。
普段は明るく可愛らしくサディスティックな発言をするきーさんでさえ、優しい言葉をかけてしまうくらいに、ハンパなく落ち込んでいる。
どうやら、ふーみんの傘がないようだった。
「坂井さぁぁん、ほら、見て見て。『寒いよ寒いよー』あ、浅野くんの手が凍えてる!ほらぁ、早く浅野くんの手をストーブの前で温めてあげたいと思わない?ね、坂井さん、帰ろう?ほらぁ」
きーさんは自分の右手をキツネの形にさせると、そのキツネの口をパクパクさせながら吹き替えをする。
たしかに、手袋をつけていないその指先が赤い手は寒そうだけれど、そんなの今のふーみんには見えていない。
「坂井さん、坂井さん、ほら、みんな帰っちゃう・・・・・・完退時間になっちゃう」
きーさんが眉をひそめながらふーみんの肩をポンポンと叩く。
「坂井さん、坂井さん。もう諦めなよ」
若干、待ちくたびれた分の不満が混じった声で再度諭され、ふーみんは「あぁ・・・」と押し出すような低い声で呟いた。
それに満足した様子のきーさん。
「よし、帰ろう!」
そう言うと同時に傘でカツリ。
相変わらず傘立てを見つめているふーみんの手を引いて、玄関を後にする。

