きっと時間にしてみれば、たった10秒とか、20秒とか。けどそれが私には5分にも10分にも思えて。


いろんな感情や思考が混じり合って。本当、急に。



3年ぶりの秋先生を見て、心がホッとしてるに違いない。だからこんなにも、胸焼けのような感覚に陥ってる。お腹が熱く燃えているような感覚。



―――泣きたくなるなんて、あんまりじゃないだろうか。



親指の爪が手の内側を刺す。ギュッと自分の手を握っていれば、何か気持ちが楽になるような気がして。



「…っ、秋先生!そろそろ私検診しなきゃ」



だから私は、成長しないのかもしれない。
相変わらず誤魔化す方法しか知り得てないから。


「……若葉」

「ほら!雄大先生来ちゃいますし」

「…若葉、」

「っ、」



今日で何度名前を呼ばれたんだろう。きっと今まで会わなかった3年分には及ばないだろうけど。それでも、きっと構わないと思えるくらい、私は名前を呼ばれた気がする。



「ほら」



たった、一言。



白衣姿の彼は、魔法みたいな言葉を発した。



両手を気だるげに広げて、眉を下げて微笑んで。



声も身長も雰囲気も、この3年の間で随分と変わってしまったように見えるけど。一つだけ変わらないものがあるとしたら。



―――きっとそれは、彼の優しさに違いない。



走らずにはいられないほど、私の足は前へ前へと駆けていた。目の端から流れ出したその液体は先生には見られないようにしておこう。



そうじゃないと、きっと先生に「何泣いてるんだ」と呆れたように笑われてしまうから。