オルガンの女神


弾数に限りはある。だが歪(いびつ)な砂利と比べ、正確性が格段に増した鉛玉は“回転"の効力を十二分に発揮する事ができる。

貫通性がない分、差詰め“それ"は弾丸の速さと威力を持つ打撃。


「せっかくの舞台だ。存分に踊ってくれ」

「───…っ!」


親指の爪で弾かれた鉛玉は空を裂き、獲物に襲い掛かる。

左に跳び、間一髪で直撃を免れた特兵ガンツ。

しかし敵は二丁拳銃(Two hand)。滞空時間を狙い、もう一発が右肩を捕える。

骨が砕けた音か、外れた音か。特兵ガンツは悲痛に顔を歪ませ、砂利の海に転がった。


「ぐぅ…ぁ…っ」

「終幕(エンドロール)にはまだ早いぜ」


息を着く暇もなく、鉛玉の追撃が男を襲う。

だがそこは特兵。未知なる“煙"で極限まで高めた身体能力により弾をかわすと、再び一蹴りで間合いを詰める。

常人を逸し、視野に捕らえる事すら困難な速度。

拳を固く握り、お調子者(ウッドペッカー)に振り抜く。


「ふう」

「───…っ!」


しかしその拳は、赤髪の男が構える両の掌(てのひら)に防がれた。

後退して削られた砂利がその威力を物語るが、その一撃は届かない。

唖然とする特兵に、ベックを口端を曲げる。


「そう嘆く事ないさ。俺にはまるであんたの姿は見えてないし、拳か蹴りか、それすら分かっちゃいなかった。ただ、ここに一発がくるのが分かったってだけの話だ」


その箇所とは、先程鉛玉により負傷した右肩。

やられたらやり返す。


「想像通り、淡白な回路だ」

「はっ、なんならもう一撃止めてみるか?」

「Baby kitchen(朝飯前)だ」