オルガンの女神


弾が弾として効力を持たず“そうでない物"が弾として猛威を振るう。

ならばと銃器を捨て、一斉に肉弾戦を挑むが、どうにも捌(さば)かれ、砂利の海に転ばされるばかり。

体力だけが消費し、何も変わらない。

軍の為に身につけた“力"と、己の為に身につけた“力"とでは、こうも差があるのか…───。

いつしか肉体に限界が訪れ、隊兵達は崩れるように倒れゆく。


「はあ…はあ…」

「拍子抜けだな。ここは稽古場か?」

「そう言ってくれるな。ここからは“特兵(おれ)"も動く」

「楽しませてくれるのかい」


「いいや」と言う声が耳をかすめた刹那、鼻に衝撃を感じ、ベックは水切り石のように吹き飛んだ。

砂煙が漂い、呻き声が弱々しく消えてゆく。


「楽しむのは俺さ、お調子者(ウッドペッカー)」


鼻の片側を押さえ、ふんと血を抜くベック。

朦朧(もうろう)とする意識がとらえたのは、釈然とした態度で佇む特兵。

そしてその足元から、蒸気のようにゆらめく桜色の煙。

あれは…───。


「拍子抜けだな。お調子者(ウッドペッカー)さんよ」

「いやあ、参った。そいつは“魔法"の類いだね?“魔力"の香りがぷんぷんする」

「ふっ、“魔力"は無臭のはずだが。言葉巧みに敵の戦術を聞き出そうって腹か」

「さあ…───ねっ」


そう言って一掴みした砂利の束を、まとめて放つ赤髪の男。

それぞれが“回転"を帯び、弾丸となりて敵を襲う。

“散弾銃(ショットガン)"。

だが歪(いびつ)な形をした砂利が無造作に射たれたとなれば、その軌道は正確さを持たず、あっさりと避けられてしまう。

更にあの“桜色の煙"。
どうやらあれは身体能力を一時的に向上させるものらしく、一蹴りで間合いを詰められては、追撃を食らい続ける。

ふらふらと体勢を整えるベック。敵を見据えて不適な笑みを溢すと、両の袖口から“それ"を取り出した。

それとは拳銃の“マガジン"。
だが装填されているのは弾丸ではなく鉛玉だ。


「さあ、続けようか」