オルガンの女神


ただ依頼をこなすだけでは飽き足りず、敢えて過酷な状況に身を置いてこそ、そこに甘味な“刺激"を感じる。

愚者を嘲笑い、その無力さを世間に露呈する。

騒ぎの震源。
それが掃除屋(クリーナー)。

ベック・ローチ。
通り名、お調子者(ウッドペッカー)。

ボズ・ウォーリア。
通り名、暴君(サップ)。


両二名も、その甘味な“刺激"に魅せられた者の一人である。


「噂に聞く通り、嫌味な野郎だ」

「ここまで簡単に事が運ぶとはね。“わざわざ"特兵殿の出番まで用意したんだぜ。期待外れだ」

「そいつは悪かった。だがおかしな物言いだな。まだ終わっちゃいねえはずだが」

「終わりさ」

「終わりじゃねえ。お前がここにいる限りなあ…!」


その瞬間、兵が陣形を取り、前衛が一斉に射撃を行った。

ジャイロ回転の弾丸が空を裂き、ベックの肉体に風穴を開ける…───はずだった。

そうなる直前、ベックがゆらりと手をかざす。

すると途端に弾丸は勢いをなくし、砂利の海に次々と沈んでゆくではないか。


「こ、今度はなんだ…!」

「た、弾が届かないなんて…!」

「ふう、いきなり撃つかね」


そう溜め息を溢しながら、ベックは一握りの砂利を握る。

そして、その一つを親指の爪と人差し指の第一間接部で挟むと、敵を一人見据える。


「躾(しつけ)がなってないんだ」


次の瞬間。

親指の爪に弾かれた砂利は、弾丸のように空を裂き、一人の兵の右肩を貫いた。

悶え苦しむ兵に、ベックは口端を曲げる。


「俺の金貨(こいつ)は“回転"を自由自在に操る」

「ば、化け物め…!」

「弾切れを期待してくれるな?」