「あのね、…私、彼氏ができたの。」


少し震えた声で一生懸命そのことを美華が伝えてくれたのは、俺が美華に振られた一週間後だった。


分かってたはずだけど、心のどこかでまだ期待してた俺は、当然その言葉で目の前が真っ白になったのを覚えている。



…それから、もう1カ月は経っただろうか。
美華とも、昔のようにとは言えないが、登校中ずいぶん会話出来るようになった。




「……あ。」

帰り道、
駅の反対側のホームに美華の彼氏がいた。あっち側ということは…美華に会いに行くんだろうか。



この前美華と2人で並んでいるのを見かけた。いかにも美男美女で誰が見てもお似合いだった。もちろん、俺から見ても。


月日というのは怖いもので、あんなに大きかった美華への想いは、振られたことをきっかけに、1カ月以上経った今ではもう懐かしいものとなりつつあった。


…たった1カ月で忘れられるくらいの気持ちしか、俺には無かったのだろうか。

そんなことないと言い切りたい。
ずっと美華のことを思っていたい、それはもう幼なじみとしてでしか許されないけれど。



ずっと見ていたからだろうか、あいつも俺の存在に気付いた。
少し驚いたような顔。そしてなんと、俺にお辞儀をした。


「………!?」


今度は俺が驚く。俺と、美華の関係を知っていたのだろうか。


でもそんなこと聞く前に、あいつは電車の中へ消えてしまった。




俺を見て、何を思ったんだ。
…どうして、頭を下げた?


今更、あいつへの嫉妬で頭がどうにかなりそうになる。


怖い。
美華のことを、いつか忘れてしまいそうで。
…なんてな。それは一生有り得ない。


だから、どうかいつまでもこの穏やかな気持ちで2人を見守れますように。

美華のことを、いつまでも大切にする俺でありますように。



放課後は、あいつに取られる。
だけど、朝一緒に登校できるのは俺だけの特権だ。




だから、明日も君を迎えに行くよ。
そして、君を君の大好きな人のもとへ送り届ける。



だから。どうか、ずっとずっと、君が幸せでありますように。