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―story―
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≪ナレーション目線≫
4月上旬―…
湘南高校の教室。
2年C組。
桜が満開に咲き、
窓の外は絶景だった。
「……きれ〜…。」
窓の外をぼんやりと
見ながら呟いたのは、
この春から
高校2年生になった
三上 花[ミカミ ハナ]。
「花、おっはよ!」
花の頭をポン、と
叩いて挨拶をしたのは
同じクラスの
田宮 香織[タミヤ カオリ]。
「香織おはよ♪」
にこっと笑顔で
返す花を、
香織は顔を綻ばせ
ぎゅっと抱きしめた。
「可愛い〜…」
あはは、と
恥ずかしそうに
笑いながら、
ガラリと開いた
教室のドアに目を
移した。
入って来たのは…
「―あ、田宮と三上
おはよ!」
人懐っこい笑みを
浮かべ、挨拶をする
佐藤 光一。
花が密かに
想いを寄せている相手で、
香織もそれを知っている。
「さ、佐藤、おはよー。」
ぎこちなく挨拶を
返す花に、
光一はニコッと
笑ってから
席にバッグを置く。
愛しげに光一を
目で追う花を、
香織は微笑ましげに
見ながら見守る。
「…香織ぃ…。
あたし告白…
しよっかなぁ…」
ぽつりと
独り言のように、
しかし確かに
香織にそう言った。
それを聞くと、
嬉しそうに
香織は笑顔になる。
「マジで!?
すごいじゃん花!
私協力するから頑張れ!」
その二人のやり取りを
黙って聞いていた
藤岡 政樹[フジオカ マサキ]
が口を開いた。
「バッカじゃねえの。
お前なんか相手に
されるかよ」
椅子に座ったまま
頬杖をつき、
冷たく花にそう言った。
「う…うるさいな!
政樹に関係ないでしょっ!」
その言葉に僅かに
眉がピクリと動いた政樹を、
香織は見逃さなかった。
政樹の気持ちに、
高1の時から
気付いていた香織は
面白がっていた。
「藤岡、そんな言い方
していいわけー?」
クスクスと笑いながら
言う香織を
無視して、政樹は
机に伏して
寝はじめてしまった。
その姿を見て
溜め息をつきながら
寂しそうに花が言う。
「政樹に言われなくても…
無謀だってコトは
分かってんだけどね…」
そんな花を見て、
健気なんだから…
などと思いながら
頭を撫でてやる香織。
嬉しそうに
撫でられながらも、
光一に目をやり
花は告白を再度
決心した。
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バス停の椅子に座り、
バスを待っている
西工業高校の三年、
杉浦 拓[スギウラ タク]。
≪拓目線≫
…また一台、
バスを見送る。
駅前行きのバス。
あれに乗れば
帰れるけど…
乗らないのには
理由がある。
人を、待ってるから。
と言っても、
待ち合わせてる
わけじゃないし、
話したこともない。
ただ、時々同じバスになる…
ただ、それだけの関係。
でも俺はそれだけの
関係とは思ってない。
去年あのコを見た時から、
ずっと好きでいる。
けど、分かる事は
すげぇ少ない。
湘南高校の2年。
彼氏はいない。
名前は、ハナ。
友達といる時、
聞こえてくる会話で
分かった事。
いつかは
話しかけたい、
そう思って今日まで
一度も話しかけられずに
見てるだけでいる。
耳にイヤホンをして、
音楽を聴きながら
あのコを待つ。
足音が聞こえるように、
音量はかなり
小さくして。
……。
スタ、スタ、スタ…
―来た…!
俺はイヤホンをしたまま、
ウォークマンの
電源を切った。
音楽を聴いているフリを
して、平静を装った。
俺の前を通り、
バスの時刻表を
見ている。
「あと10分かぁ……」
小さく呟いた
独り言は、
多分俺が音楽を
聴いてて
聞こえないと
思って呟いたんだろう。
けど、ウォークマンの
電源は切ってて
音楽なんか聴いて
ないから、
ばっちり聞こえてた。
そういう所も
マジで可愛いな、って
心ん中で思った。
あと10分は
一緒に居れるんだ。
そう思ったら
嬉しくて。
にやけそうになる
顔を隠そうと、
頭を掻くフリをして
顔を隠す。
俺、ダッせぇ…。
でもそんな事
どーでもいいくらい
好きで、好きで。
話した事もないのに
なんでこんなに
好きなのか、
自分でも疑問に思う。
けどそんな理屈
どうでもいいくらい…
“好き"って
思うんだ。
―バスが来た…。
俺はイヤホンを
外して立ち上がる。
あのコは、俺の方を
向いて小さく会釈をし、
先にバスに乗った。
そんな小さな事が
嬉しくて。
恋って、すげぇな…
そう思いながら
俺もバスに乗り、
あのコが座った
後ろの席に座った。
あるバス停で、
男子校の東校の奴らが
二、三人乗ってきた。
全員チャラくて、
うるさい奴ら。
乗ってくるなり
あのコを見ると、
囲むようにして
あのコに近づいた。
「あっれ、湘南のコ?」
「かーわいー」
「何年ー?」
三人の男に次々に
質問責めにあって、
頭しか見えないけど
明らかに困っている
様子だった。
「アド教えてよ〜」
「…ケータイ、持ってなくて」
小さな声で
そう言うあのコ。
えー、などと
言いながら、
一人の男が
あのコの髪を
触った。
その瞬間、
考えるより
先に体が動いた。
「な…なんだよ、お前?」
突然腕を掴んだ
俺を、驚いたように
見るその男。
「嫌がってんだろーが。
だせー事してんじゃねえよ」
俺がそう言うと、
三人組は不服そうに
一番後ろの席へと
移動していった。
「…あの、ありがとう
ございます…」
あのコが、ちゃんと
俺を見てる。
俺に喋ってる。
俺に笑ってる…
「どーいたしまして」
にこやかに
笑いながら、
そう答えた。
それが
ハナちゃんと
話せた、「初めて」。
≪花目線≫
チャラい男子から
助けてくれた、
たまにバスが
同じになる茶髪の
男の子。
私がお礼を言うと、
優しい笑顔で
「どーいたしまして」
って答えた。
その笑顔に
つられて
あたしも
つい笑顔になる。
バスの中に、
和やかな
空気が流れる。
「名前…聞いてもいい?」
少し控えめな
言い方で、
その男の子が言った。
でもすぐに、
ハッとして言葉を
続けた。
「ご、ごめんっ!
あいつらと同じ事
してんな、俺…」
焦ったように
頭を掻くと、
あたしが座っている
座席から離れようとした。
「―三上花!」
あたしはつい、
自分の名前を
口にしていた。
男の子は
最初は驚いたように
目を丸くして
あたしを見ていたけど、
すぐに笑顔になると
自己紹介を始めた。
「―そっか、
俺は杉浦 拓。
西工の三年。
…よろしく、花ちゃん!」
ニコッと
人懐っこく笑う
杉浦君は
眩しく思えた。
「よろしく、杉浦君」
あたしも
そう返すと、
目的のバス停に
着いたので
小さく手を振って
バスを降りた。
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≪花目線≫
―バスを降りてから、
コンビニに寄った。
入るとすぐに
新発売のお菓子コーナー。
迷わずその前に立ち、
上の段から真剣に
お菓子を選抜する。
春限定さくらポッキー。
桃&さくらんぼ味の飴。
濃厚チョコクッキー。
そのお菓子たちを
抱え、ご機嫌で
レジに向かおうと
くるっと踵を返すと…
ドンッ!!
ドサドサッ…
「ご、ごめんなさ…」
人にぶつかってしまい、
謝ろうと顔を上げた瞬間、
固まった。
ぶつかったのは、
政樹だった。
しかも、あたしが
必死に選んだ
お菓子が床に
落ちちゃってるし。
「前見て歩けよな、間抜け」
…はぁ、
また暴言吐かれるし…
「うるさい。
あーあ、政樹のせいで
あたしのお菓子がぁ…」
わざとらしく
そう言い、
政樹を無視するように
レジへ向かった。
ピッ。
「520円になります」
財布から小銭を
出そうとした時…
ドン。
あたしの後ろから
腕が伸びてきて、
レジにカフェオレが
置かれた。
「ちょっ…」
あたしが
振り返ると、
やっぱり政樹だった。
「千円お預かり致します」
店員さんが
言ったので、
再び前を向く。
…あれ?
あたしお金…
……政樹が払ったんだ。
政樹はカフェオレだけ
手に取ると、
さっさと店を出た。
あたしも
お菓子のレジ袋と
お釣りを持つと、
政樹の後を追った。
「っ政樹!!
ありがとね、お金!」
袋を少し
持ち上げ、
お礼を言う。
政樹は少し振り向いて
片手をあたしに
差し出す。
「あ、お釣り?ハイッ。」
すかさず小銭を
渡そうとすると
政樹が顔をしかめた。
「違ぇよ。」
「え?」
「菓子。俺にもよこせ。」
ぶっきらぼうな
表情のまま
片手を差し出した
ままの政樹を見て、
思わず吹き出した。
「な、何だよ!」
「ごめっ、
政樹ってば
相変わらず…
顔に似合わず
甘党だよね…」
笑いを堪えながら
そう言うと、政樹は
悪いかよ、と
ふて腐れた。
「ごめんごめん、
あ、ポッキーでいい?」
あたしはそう言って
袋に手を入れた。
「…おい」
「え?」
